木目金を知る


木目金を知る <第11回>

  2018年8月31日

第10回ではロンドンの大英博物館にて木目金の鐔を調査した模様をお伝えしました。100年前に日本でその鐔に出会い、技術の素晴らしさ美しさに感動してイギリスに持ち帰ったに違いない、その同じ感動を得た調査でした。今回は同時期に訪れたアッシュモレアン博物館での調査の模様をお伝えします。

ロンドンから西に電車で1時間のオックスフォード市にアッシュモレアン博物館はあります。オックスフォードといえばご存知の通り、ハーバード大学などと並ぶ世界有数の名門オックスフォード大学のある町です。様々な学問分野の教職員と学生が同じ寮で寝食をともにし学ぶという「カレッジ制」になっていて、それら39のカレッジが集まる総合大学になっています。町の中心部はそれらの建物で占められていて、12世紀に建てられたゴシック様式の石造りの建物はどれもみな荘厳で歴史の重みが感じられ、圧倒される美しさです。

アッシュモレアン博物館はこのオックスフォード大学の博物館であり、1683年に開館した世界最古の大学博物館です。エジプトのミイラからコンテンポラリーアートまで幅広い所蔵品を誇り、日本展示室もありますが、なんと茶室まであるんです! ここでは実際に月に一度「お茶会」が催され(展示室内でですよ)、毎回大変な人気だそうです。

さてこの博物館に収蔵されている木目金の鐔の調査についてです。事前に日本美術部門のキュレーターの方に確認し、木目金の鐔3点、グリ彫りの鐔4点を調査させてもらう事になっていました。欧米では博物館のキュレーター(curator)とは学術的専門知識を持って作品の研究、収集や、展示企画業務を行う職のことで、日本の教授にも相当する専門職です。

調査当日出迎えてくださったのはキュレーターのクレア・ポラール(Clare Pollard)さん。日本の明治の工芸を専門とされていますが幅広く日本美術に通じておられます。2000年の秋には東京国立博物館で調査研究を行われたこともあり、日本語も話される笑顔が素敵な方でした。この日は鐔の調査に加え、収蔵庫、展示室も案内いただき、閉館まで丸一日がかりの調査となりました。

調査室の机は大英博物館と同じく作品を傷つけないように、一面にクッション性のあるフェルトとその上に薄紙が敷かれていました。

いよいよ実物と対面、一つ一つ計測し観察し記録していきます。まずは木目金の作品3点。

こちらは四つ木瓜(よつもっこう)型の小ぶりの鐔です。小刀用と思われます。硫酸銅で煮色着色された銅の赤みが強い大変綺麗な色の鐔です。
赤銅(銅と金の合金)の黒色との2色を用いて、小さい空間の中に趣のある木目金模様を描いた、とても味わい深い作品です。

全体に無数の丸い杢が施された大型の鐔。これだけでも123.5グラムもあり、刀全部では相当な重さだっただろうと改めて感じました。スイスのバウアーファンデーション東洋美術館によく似た鐔が収蔵されています。

とても珍しい装飾の鐔です。鐔の中央部分は3色からなる木目金の上にさらに別の金属を被せてあり、縁の部分も3色の組み合わせになっている大変手の込んだ鐔です。どんな派手好みのおしゃれな武士が持っていたのでしょうね。

 

一つ一つ何か所も厚み等計測し、詳細に写真撮影も行うため、あっという間に調査時間が経ちます。

グリ彫りの鐔4点の調査や収蔵庫、展示室については次回ご紹介しますので、お楽しみに!


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木目金を知る <第10回>

  2018年8月16日

木目金の刀の鐔等の作品は明治時代に海外のコレクターに美術品としてコレクションされ、今では世界中の著名な博物館等に収蔵されています。今回は6月に行ったイギリスの博物館調査の内、まずはロンドンの大英博物館所蔵の木目金作品の調査の模様をお伝えします。

大英博物館は、所蔵品の数が世界最大規模を誇る国立博物館です。 大英帝国最盛期の18~19世紀にかけて世界中から集められた発掘品や美術工芸品など約800万点を収蔵しています。

有名な文化財や芸術品が多数展示されており、ヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)解読の重要な手がかりとなった石碑「ロゼッタ・ストーン」や古代エジプトのミイラ、イースター島のモアイ像、などが有名です。

大英博物館が所蔵していることが判明していた木目金の作品は普段は展示されず収蔵品庫に保管されています。1981年にコリングウッド・イングラム(Collingwood Ingram)氏(1881~1981)が亡くなった際に大英博物館に寄付されたものです。彼は鳥類学者であり、またその研究に関連して植物のコレクターでもありました。ビクトリア女王時代の19世紀後半に日本から観賞用の桜が多く持ち込まれ、可憐さからその後ブームとなります。イングラム氏も日本を3度訪れて桜を収集し日本の桜に関する世界的権威となりました。このように日本との縁が深く、そのため日本美術、特に根付のコレクターとなった彼の手に木目金の鐔も収められたのでしょう。桜とともに海を渡った鐔に1世紀近くぶりに我々日本人が再び出会う機会だったかもしれません。

今回の調査は、事前にアジア美術部門に日本杢目金研究所から調査希望を伝えたところ許可がもらえたため渡英調査の運びとなりました。6月中旬のその日は開演前から多くの人々が入口で待っていました。大英博物館は全世界の人々に入場無料で公開し、任意の寄付BOXが設けれられています。貴重な作品の保存・展示に係る費用の多くは寄付で賄われているため、我々もささやかながら協力し、早速開館と同時に指定された調査室に向かいました。

アジア美術の展示室横に位置する調査室の扉をノックする時は緊張しましたが、笑顔で迎えてくれたのが、ダリル・タッパンさん。大英博物館の所蔵品の管理や調査業務のアシスタントの方で、彼女から収蔵庫の様子や管理方法を聞き取りし、また、イギリスで日本美術に詳しい他の博物館を教えていただくなど、この日はとても親切に私たちの調査を手助けしてくださいました。

調査室の広々としたテーブルは作品を傷つけないように全面がクッション性のあるフェルト状の敷物で覆われ、さらにその上に薄紙が敷かれていました。持参したデジタル顕微鏡や測定器具を設置し、用意されていたゴム製の手袋を装着して調査開始。

テーブルには既に木目金の作品である刀の鐔が用意されていました。木目金の鐔1点と、木目金風の装飾の鐔1点です。WEBの画像でしか見たことのなかった木目金の鐔の実物に対面できて大感動!の瞬間です。

いよいよ鐔を手に取り全体の大きさや重さなど詳細な計測を行います。鐔は一見平面に見えますが鐔の中心部分の方が厚みがあるように作られていることが多いため、中心から鐔の縁まで放射状に計24か所の厚みや櫃孔(ひつあな)等を計測します。また各部分の撮影は顕微鏡も使用して何か所も撮影を行いました。

この結果WEB画面だけではわからなかった新たな発見がありました! 鐔の表と裏の面と側面の縁に当たる部分は別々に制作されることが多いのですが、この鐔は表面の木目金の板をそのまま側面にまで加工しています。木目金の模様が側面にまで続いていることからわかります。後から巻き付けたかのような縁(ふち)を同じ一枚の板から木目金の模様を崩さずに制作するのは大変な技術を要します。

また、鐔の表と裏で「虫食い跡」を表現していると思われる形状の部分は、鋼鉄製の型を木目金の板の上から打つことで作成されていました。木目金の模様が続いていることからわかります。さらに型の中を魚々子(ななこ)と呼ばれる先が粒状の鋼鉄製のタガネを用いて装飾しています。今回の詳細な観察を通して、何種類かある虫食い跡が同じ大小の型をいろいろに組み合わせて変化をつけて表現されていることもわかり、その見事な制作技術に感嘆しました。

 

この鐔をイギリスに持ち帰ったイングラム氏は、鳥類や植物の研究者です。木目金で表現された模様や、虫食い表現など、自然を表現する日本人の繊細な手わざに感嘆し、愛でたのではないでしょうか。本当に素晴らしい作品は、時代も国の違いも超えて何世紀にもわたって守り伝え継がれるのだと改めて感じた調査でした。

同じ時に訪れたオックスフォードのアッシュモレアン博物館には7点の木目金とグリ彫りの鐔がありました。いずれも他では見られない装飾技法が含まれている大変興味深い作品です。日本担当学芸員の方に関連の資料や保管庫も見せていただくことができましたので、詳細は引き続きWEB「木目金を知る」に連載していきますのでお楽しみに!


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木目金を知る <第9回>

  2018年6月15日

代表の髙橋が江戸時代の木目金作品を毎年1点復元研究制作しています。江戸時代の職人がどのように、どのような想いで木目金という技術を用いて作品を制作していたのか。当時の職人の銘が刻まれた刀の鐔と向き合い、その技術、表現の再現を試みることを通して、作者と木目金という技術との関係を解明していきます。今回は復元研究制作の様子も順にご紹介しながら、みなさまにもその一端を感じていただこうと思います。

今年復元制作しました鐔は江戸時代中後期の作品「銘 豫州枩山住 正阿彌盛章」です。
現在の愛媛県松山に住んでいた伊予正阿弥派の鐔工盛章の手によるものです。この「正阿弥」という名前、木目金をご存知のみなさまにはなじみがおありかと思います。最古の木目金として現存する小柄の作者であり木目金を生み出したとされる「正阿弥伝兵衛」と同じです。金工作家の中で名高い一派の名前でした。室町末期頃に興った金工・鐔工の一派であり、京・伊予・阿波・会津・庄内・秋田など二〇派以上に分派しました。幕末・明治に活躍した「正阿弥勝義」も有名です。
この正阿弥盛章の鐔は刀の鐔の中でも比較的大ぶりな作品となります。鐔の形は障泥形(あおりがた)と呼ばれるもので、上部の横幅より下部がいくぶん幅広に作られた安定した形です。「障泥」とは馬具の一部で、泥よけとして馬の胴にかぶせる革具のことをそう呼び、形が武士にとって身近な形であったため、鐔の形状にも多く用いられたようです。鐔の形は他にも軍配型や木瓜型など様々ありますが、これについてはまたの機会にご紹介したいと思います。

さてこの鐔の木目金の模様を観察していきましょう。鐔一面に広がる複雑な文様。夜の月明かりでしょうか、それとも木漏れ日に照らされているのか、静かにゆらぐ川面に現れる、捉え難く変化する模様を表現しているかのようです。全面に施された大小様々な玉杢と呼ばれる丸い形状と、それらがつながり漂うかのように見える流れ跡が見えます。銅、赤銅、銀による制作により、朱、黒、銀色の織りなす景色は川底の藻や岩肌が透ける水面のようでもあります。
そこには作者が表現したい具体的な景色、イメージがあります。それを表現するために木目金の技術を用いているのであって、木目金は作者の表現の脇役にすぎません。木目金の鐔の歴史を追ってみると、先ほどの正阿弥伝兵衛の小柄や、同じく伊予正阿弥派の盛国作の鐔など、時代が古い頃の方が模様は複雑であり、作者が鐔の中に表現したい情景・世界観のイメージを演出するための技術として木目金を用いていると思われます。

 

正阿弥伝兵衛の小柄

 

伊予正阿弥派の盛国作の鐔

 

時代が下がり江戸時代末期の木目金の鐔においては、比較的その模様が一定のパターンとして制作されています。「猪目形磨地木目金鐔 銘 正隆」の鐔などがそうです。

猪目形磨地木目金鐔 銘 正隆

 

模様は大変細かく繊細であり高度な技術を要しますが、ひたすらに規則的な彫りを重ねることでパターンとして文様を表現しています。木目金の技術が完全に文様を作る技術として扱われています。効率化や生産性の追求によって画一化へ向かっていったのでしょうか。勿論、美しい文様の表現として木目金の特性が活かされているという点は万人が認めるところでしょう。しかし木目金の技術はさらに深い表現を可能にさせられるのです。
この盛章の作品は明らかに伊予正阿弥派の流れを汲んでいて、一見パターン化している文様のようでいて、そこには作者である盛章が、描こうとする景色を意図して緻密に制
作している跡が見られます。
復元研究制作は、このような鐔の観察を通して作者の意図を感じ取り、想像しながら、その表現したいイメージを同じく眼前に描くことによって、制作作業を進めていきます。

まずは使われている金属の種類を色から判断し、それぞれの金属がどの順番で重ねられているかを調べます。平らな表面に見えている模様を目で追い重なりを分析するのですが、模様を彫り下げては延ばしを繰り返している場合、その順番を正確に解明するのは容易ではありません。次に鐔を計測し、重さや厚みを元に模様を構成する各金属の重ねる枚数やそれぞれの厚みを割り出します。完成品よりも小さい鐔型に模様となる彫りを入れ、最終的に延ばして平らにした時に元の鐔と同じ大きさ、重さ、模様になるようにするための分析です。

次に実物大の鐔画像を縮小した画像からトレーシングペーパーに模様を写し取り、用意した地金に文様を写し書きします。地金は先ほどの分析から割り出した厚みの金属を重ね、加熱し圧着したものを使用します。

まずは丸い形状から彫ります。模様の大きさ、積層の見え方を元の鐔を良く観察しながら慎重に彫ります。彫る深さや角度によって延ばした時の模様の色、面積が異なるからです。

丸い形状が彫り終わったら、それぞれをつなぐように間を彫り進めます。決して単調な作業などではなく、作者がイメージする景色をそこに描くための素材との対話がそこにあります。この彫りによりそれぞれの模様が複雑につながることで、ゆらゆらと漂う水の流れのそこに見えてきたのではないでしょうか。

彫り終わったら鐔を熱し元の鐔の大きさになるように慎重に延ばす作業を繰り返します。表面を平らにすることで模様の完成です。実物大の鐔の形に切り抜きます。

 

今回復元した鐔は覆輪と呼ばれる鐔の外周部分も木目金で作られています。細長い形状に積層した地金に同様に模様を彫り、平らに延ばしたものを制作し、鐔の中身となる銅素材に巻き付けます。

鐔の表と裏に木目金を貼りつけ、鐔の形に整え、最後に銘を刻みます。

そして最終的に煮色着色にて色揚げをして完成です。この「煮色着色技法」については、またの機会に詳しくご紹介しますが、硫酸銅等の液体で煮込む前に、今も昔も必ず「大根おろしに漬ける」という作業があります。

決して「おまじない」などではなく、脱脂効果等の科学的な作用があるのですが、実はいまだに完全には解明されていません。

煮色着色します。その時々の素材の状態によりますが数十分煮込みます。時々色の変化を確認しますが、空気に触れないよう慎重に行います。

復元制作を終え、やはり感じるのは作者が木目金の技術を用いて、この鐔の中に、ある種の情景を表現したかったのだということです。無作為に彫られた模様の集成ではなく、作者の眼前にはっきりと浮かぶイメージを木目金の特性を利用して鐔の中に緻密に表現していったのです。


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木目金を知る <第8回>

  2018年4月18日

代表の髙橋が監修した「木目金の教科書」には海外の木目金作家と作品も掲載しています。
James Binnion氏もその一人。アメリカで30年以上にわたり独自に木目金を研究し制作されています。
今回テレビ東京の番組「世界!ニッポン行きたい人応援団」に出演し、木目金発祥の地、日本に学びに来るということになり、髙橋が代表を務める日本杢目金研究所も収録に協力しました。収録の日は丁度東京の桜が満開の晴れた日。来日は2回目というBinnion氏も夫人も日本の自然美に感動しきりでした。

取材1

木目金の技術が生まれた江戸時代の本物の作品は、ボストン美術館収蔵の「吉野川図鐔」1点しか見たことが無いというBinnion氏。様々な木目金が見れるとあって、来訪をとても楽しみにされていたようです。
収録当日、まずは木目金の金具が施された刀をご紹介すると、大変興味深げに手に取り眺め、サムライよろしく脇に携えてもみておられました。

取材2

刀装具の縁、頭、瓦金、鐺、の部位が全て同じ模様の木目金で、揃いで刀の鞘と共に残っているのは大変珍しく貴重な作品です。
また、鐔は江戸時代後期の作品「銘 予洲松山住正阿弥盛国タガヤサンノ地加称」。
珍しい四角紋の木目金模様です。

鐔
盛国
髙橋からは、木目金の元祖となるグリ彫りの作品から順に木目金の歴史を追って江戸時代の作品を解説。
鐔などの刀装具だけでなく、矢立や薬缶などの作品もご覧いただきましたが、髙橋もBinnion氏も、同じ木目金の技術による一人の制作者として、当時の職人技のすばらしさ、美しさへの賞賛を惜しまず、また本当にその技術を駆使することの大変さ、苦労を共感し合っておられました。

収蔵品

異なる金属を何枚も重ね合わせ接合する難しさ、そしてさらに加工し模様を生み出した後に、立体の作品へと成形していくその高度な技術。江戸時代の様々な作品、木目金の多様な模様を間近で見ることができ、いにしえびとの創作の様子を少しは体感していただけたようでした。人生の大半を木目金の制作に捧げているというBinnion氏。まだ今回は収蔵品の一部のご紹介だと告げると、必ずまた来日すると満面の笑みでした。

取材3

この日は別途、収蔵品だけの撮影も行いましたが、木目金の模様を最大限アップで見せるようにした撮影は興味深く、実際の放映がとても楽しみです。ぜひ皆さんもご覧ください。

番組はテレビ東京系列局にて4月23日(月)20時から放送予定です。
番組HP:http://www.tv-tokyo.co.jp/nipponikitaihito/

物撮り


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木目金を知る <第7回>

  2017年11月11日

これまでの連載では、国内外の木目金作品に関する調査研究についてご紹介してきましたが、今回は「木目金」の歴史を、装身具を中心とした日本の金工技術の歩みと共に解説いたします。

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日本のジュエリーの起源
約一万二千年前の旧石器時代に装身具は生まれたと言われています。石製品の飾りから縄文時代には、骨角、貝、木製の飾りの製作が見られますが、当初は「おしゃれ」ではなく、権威の象徴、祭りごとに使う飾りや同族の証など極めて社会的な意味が強い道具として発達したようです。弥生時代以降には、青銅、ガラス、金、銀、金銅等が加わり、単なる装身具ではなく政治的・宗教的色彩の強い物として流通していました。

刀と共に発展した金工技術
その後の時代も大陸から様々な工芸技術が伝わり、人々の習慣や様式の変化とともに発展し、日本の伝統文化を作り上げる重要な役割を担いました。中でも金工技術は武家社会の発展と共に武士の魂の象徴である刀と共に独自の発展を遂げたのです。そして日本の金工技術は約二百五十年余りの泰平の江戸時代に大きく花開きます。
戦が少なくなった江戸時代では、刀は戦う道具としての機能よりも身を飾る道具として発展しました。
「木目金」の最も古い作品として残る※1出羽秋田住正阿弥伝兵衛作の小柄(小刀の持ち手)は金・銀・銅・赤銅からなる優雅な趣が特徴です。

江戸時代の装身具の発展
平和になるなかで武家社会の変化と町人文化の隆盛と共に装身具の制作技術が発展します。提げ物と言われる煙管、印籠、根付等が流行し、武士や町人にも広まっていきました。町人が腰に印篭を提げ、煙管を吸っている様子は、時代劇でもお馴染のワンシーンだと思います。それぞれのコーディネイトに趣向が凝らされ、「粋や洒落」といった町人文化独特のユーモア溢れる作品が残っています。「木目金」も※2煙管や矢立(携帯用筆記用具)などの実用品の装飾に用いられるようになります。寄木細工のように、異なる色味の金属を嵌めてつくる切り嵌め象嵌の技術など、刀装具で磨かれた様々な金工技術が惜しげもなく使われたのです。

明治~近代の金工技術の変化
しかし、時代は大きな転機を迎え、明治時代には急速に西欧化が進み、明治9年、帯刀禁止令が出されたのです。職を追われた刀装具の職人たちはその技術の使い道を、帯留めなどの装身具や、殖産興業の政策のもと海外への輸出品制作へと活路を見出してゆきます。「木目金」の技術も廃刀令と共に一旦は衰退し「幻の技術」と呼ばれるようになりますが、その後この技術にひかれた現代の熱意ある人々の努力によってよみがえったのです。
杢目金屋では、この貴重な伝統技術木目金及び関連の作品を体系的に収集・保存し研究しています。また「木目金の教科書」を監修し、広く普及に努めています。


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木目金を知る <第6回>

  2017年7月7日

杢目金屋では毎年1点、江戸時代の名品である刀の鐔を復元制作しています。2017年4月に日本美術刀剣保存協会主催の「新作名刀展」に出品した作品は明治時代に制作された「木目金地鐔 銘 松山住 利信」の復元鐔です。2015年に出品したスイスの「バウアーファンデーション東洋美術館」収蔵の鐔復元作品の「努力賞」受賞に続き、この作品も同賞を受賞しました。

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「木目金地鐔 銘 松山住 利信」の復元/制作 髙橋正樹

 

今回復元した鐔は杢目金屋の研究機関である特定非営利活動法人「日本杢目金研究所」の収蔵品です。明治時代に伊予国(今の愛媛県)松山で制作していた「山本利信」の作品で、大小の刀拵えとして二つの木目金の鐔が対で残されている大変貴重なものとなります。鐔の表と裏はそれぞれ「夜」と「昼」を表現しています。具象と印象の間とでもいうような表現として「夜と昼」は芸術における題材によく見られます。

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「木目金地鐔 銘 松山住 利信」
日本杢目金研究所収蔵

 

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表の「夜」の素材は「赤銅」と「銀」。「赤銅」は銅と金の合金で見た目は「素銅」と変らない銅色ですが、煮色着色を行うことで青みがかった黒色に変化します。裏の「昼」の素材は「赤銅」と「素銅」。「素銅」は煮色着色により赤褐色になります。

 

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表 煮色前

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表 煮色後

煮色着色とは硫酸銅と緑青の混合溶液の中で数十分から数時間程煮込むことで金属の表面を酸化させ色を変化させる方法です。意図的に金属を酸化させることで望む色に仕上げる古来よりある着色方法であり、これにより100年以上経った現在でも美しい色が残り、明治時代の「夜と昼」を今に伝えることができるのです。


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木目金を知る <第5回>

  2017年5月30日

江戸時代後期には刀装の職人が矢立や煙管など、町人たちの日用品の制作にも携わるようになり、木目金も当時の江戸においてデザインに広く取り入れられています。また、明治にかけて、海外向けの輸出品やお土産の品として木目金が使われた工芸品が量産されるようになりました。今回は収蔵品の中からその一部をご紹介。特に皆様おなじみの刀の鐔以外の木目金、グリ彫りの名品をご覧ください。

1.屈輪香合(ついしゅこうごう)
明 中国 漆
H37.7×φ70.2mm
屈輪(ぐり)彫りの中でも端正な表情をもつ名品。
※香合とはお香を収納する容器のこと。茶事に使用する。

 

2.錬金小薬鑵(れんきんしょうやかん)
江戸時代後期 赤銅 素銅
H60×W70mm
小ぶりのかわいらしい薬缶。
ふたの取っ手以外は全て木目金でつくられています。

 

3.矢立(やたて)
江戸時代後期 赤銅 素銅
L210mm
矢立とは、携帯用の筆記用具のことです。墨壺がついているため出先で筆が使えました。
全面に木目金が施されており、形状としては一般的なものですが、素材が木目金になるだけで自然な風合いを感じさせます。

 

 

4.とんこつと根付
江戸時代後期 漆
とんこつ:H87.5×W76.5
根付:H25.1×43mm
大変珍しい屈輪彫りのとんこつ。とんこつとは煙草入れのことですが、その語源は不明とされています。

 

5.とんこつと煙管(きせる)入れ
江戸時代後期~明治初期
とんこつ:H73×W84.3mm
煙管入れ:L220mm
伎楽面を描いた極めて珍しい漆の作品。
屈輪彫りのデザインを昇華して作られた妙品。当時の旦那衆である趣味人がこだわってつくらせた特注品と思われます。

 

 

 

 

6.寄金細工の煙管
江戸時代中後期  金、銀、赤銅、四分一、素銅
上:L270mm 下:L230mm
木目金、象嵌、切り嵌め、彫りの技術を駆使して寄木細工状に作られた「寄金細工」の煙管二種。色合い、文様の組み合わせがモダンで、華やかな優雅さを漂わせています。


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木目金を知る <第4回>

  2017年3月3日

結婚指輪「つながるカタチ」は2015年のグッドデザイン賞受賞に続き、2016年、世界三大プロダクトデザイン賞の内の一つであるドイツのreddot design賞を受賞しました。

レッドドット授賞式の様子

2016年のreddot design賞は52か国5,214の応募があり1304点が受賞。reddot design賞はこれまでにもアップルやNIKE、dysonなど世界的な企業も多く受賞しています。授賞式には世界中から受賞者が集まり、受賞作品は、エッセン市にある世界遺産「ツォルフェライン炭鉱跡地」の一部を改造した「レッドドットデザイン博物館」に常設展示され「つながるカタチ」の結婚指輪も展示されました。

つながる
レッドドットデザイン賞2016受賞
結婚指輪「つながるカタチ」

この授賞式出席の際にドイツの「ハンブルク美術工芸博物館」も訪問しました。ハンブルクはベルリンに次ぐドイツ第二位の都市です。約140年の歴史を持つこのミュージアムのテーマは「芸術と産業のためのミュージアム」。テクノロジーと並行して発展してきたデザインという視点を持ち続けています。

博物館
ハンブルク美術工芸博物館外観

現代のデザイナーや職工のために、古今の芸術やデザインを同じ屋根の下に展示するという方針を打ち出していることもあり、訪問時もNIKEのシューズデザインの展示や、企画展として「HOKUSAI×MANGA」展が開催されていました。

ハンブルク02ASICSのシューズデザイン展示

博物館04モダンな印象の常設展示

この訪問はこのミュージアムの東洋美術部門が目的でした。刀や鐔など日本の工芸品が数多く展示されており、茶室も設けられています。

博物館03日本の工芸品常設展示

ジャポニスムに強い影響を受けたアール・ヌーヴォーの世界屈指のコレクションを誇るこのミュージアムの方針に沿っていると言えます。そして東洋美術部門にはグリ彫りの作品が展示されています。「木目金」の元となった漆のグリ彫り作品です。

収蔵品01漆のグリ彫り作品その1

収蔵品02漆のグリ彫り作品その2

収蔵品03漆のグリ彫り作品その3

東洋と西洋、古今のデザインが一同に展示されているこのミュージアムで感じたのは「つながるカタチ」との共通性。伝統とイノベーションの融合が生み出す現代に生きる作品の持つ力です。杢目金屋はこれからもそういった作品作りを続けていきます。


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木目金を知る <第3回>

  2017年1月31日

杢目金屋では、毎年江戸時代の名品の鐔を復元し日本美術刀剣保存協会が主催する「新作名刀展」に出品しています。2015年の復元制作の様子は2016年の1月にNHKの番組「美の壺」でも紹介されました。

「鑠木目地鐔(わかしもくめがねじつば)
銘 江府之住人正道作」の復元

江戸時代後期 赤銅・素銅 銘 正樹

今回ご紹介する鐔は、元となる鐔は北欧デンマークのコペンハーゲン工芸美術博物館に収蔵されており、2015年春には現地調査にも赴きました。同博物館はアルネ・ヤコブセンやハンス・J・ウェグナーなど、デンマークが誇る巨匠デザイナーの作品など、中世から現代までのデンマークデザインの歴史が全てわかる展示になっているだけでなく、国内外の名作を数多く収蔵しています。

コペンハーゲンコペンハーゲン工芸美術博物館

館内には江戸時代の名品の鐔も他にも多数収蔵されており、調査時には特別に収蔵品保管庫に入室させていただき、木目金の名品を調査することができました。日本杢目金研究所から発行した「木目金の教科書」には、同博物館の協力の元、収蔵されている江戸時代の名品を数点掲載紹介しています。

コペンハーゲン01コペンハーゲン工芸美術博物館 木目金収蔵品1

コペンハーゲン02コペンハーゲン工芸美術博物館 木目金収蔵品2

今回復元した鐔の特徴は流れるような繊細な曲線の模様です。木目金の中でも珍しい文様で広がる流れの中に斑文があります。木目金の模様を生み出すには偶然性を利用しますが、作者が意図して工夫しないとこのような模様を描くことはできません。

型どり
木目金模様分析

復元研究
地金への模様制作のための第一段階写し取り

鏨
鏨(たがね)による模様の彫りだし

復元制作においても、この模様を再現するための分析が大変重要であり、模様を生み出すための彫りの作業は慎重を要しました。鐔という限られた世界の中で表現する木目金の繊細で美しい模様、卓越した技術。デザインの国と言われるデンマークにおいても人々を魅了していることでしょう。


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木目金を知る <第2回> 後編

  2016年1月8日

前回、ボストン美術館所蔵の高橋興次の鐔と杢目金屋代表の髙橋正樹との縁についてご紹介しました。同美術館に赴き興次作の「吉野川図鐔」の調査を行った髙橋は帰国後この鐔の復元制作を行います。
今回はこの復元研究についてご紹介します。

「吉野川図鐔」「竜田川図鐔」ともに、最大の特徴は、桜の花びらと紅葉の葉という他に類例のない木目金による具象物の描写にあります。木目金は、鏨(たがね)などにより積層された材料を彫り、鍛造加工をすることで重ねた下の層の金属の色が表出することで文様が作られるため、この工程において、具象物の文様を定型で作り出すことは不可能に近く、以前の研究からも、具象物の文様は刻印によることが判明しています。今回の復元は、この文様の制作工程の研究をさらに進めることが目的でした。
鐔を観察することにより、使用された金属の種類、積層構造を分析することができます。また、文様の詳細な観察から制作工程の順番が確定出来ます。これらを元に復元制作は下記の通り実施されました。

1.素材の金属(赤銅6枚、四分一6枚)を積層し接合
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2.積層した地金を鍛造後、ローラーにて圧延加工
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3.上述の2まで加工してできる地金を3枚用意し、更に接合
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4.桜の鏨と楕円の鏨で桜と花びら文様を刻印
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5.刻印部の拡大
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6.桜と花びら文様の完成
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7.波型の鏨で刻印してゆく 3種の鏨を使い分けている
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8.表面を鑢で切削、文様が表出
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9.木目金で制作した覆輪をつける
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10.銘を切る
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高橋興次のこの二つの鐔は木目金を単なる「文様をつくる技術」ではなく、イメージを表現する手段にまで高めた作品でした。鐔の全面を木目金の波の文様で覆うことで、無限の広がりを演出し永遠の川の流れを表現することを可能にしています。木目金の技術でしか表現出来ないデザインを具現化し、昇華させることに成功した優れた作例なのでした。

今回の復元制作による研究については、髙橋の博士論文「木目金ジュエリーによる装飾表現の可能性」の中で詳しく報告しています。
下記に、論文の該当部分を抜粋して掲載いたしますので、詳しくはこちらをお読みいただけます。

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復元研究3
≪木目金 吉野川図鍔 銘 高橋興次(花押)≫ ボストン美術館蔵 ビゲロウ・コレクション
江戸時代中後期 赤銅、四分一 H73.0×W69.0×T5.0mm
≪木目金 竜田川図鍔 銘 高橋興次(花押)≫ 髙橋正樹蔵

古来より吉野川の桜、竜田川の紅葉は万葉集をはじめ、『古今和歌集』や『新古今和歌集』などで詠み継がれてきた有名な題材である。美しい風景は、いつしか現実を超越したイメージ世界へと飛躍した。興次は、この鐔の中に表現したかった情景に対する特別な思いから、「表現と技術の融合」という、木目金が今まで到達しえなかった領域にまでその作品を昇華させている。八木瓜(やつもっこう)形という複雑な形状にも関わらず同一の素材をその側面全体に丹念に貼り付け、更に両櫃孔(りょうひつあな)の内壁にまでその素材を貼り込み、鐔全面を川の流れの文様で覆い尽くすことによって、鐔という小さな作品の中に無限の川の流れを見る者に感じさせることに成功しているのである。

観察
文様は、四分一、赤銅の2種類の組み合わせによる木目金で作られている。川の水流を表現した流線型の流水文が全面に施され、吉野川図は、桜が竜田川図(図版15)は紅葉の文様がバランスよく構成されている。更に斑点状の文様によって流線型の文様に変化がつけられており、その効果によって水流が変化に富んだ奥行きのある表情を作り出している。また櫃孔の内側、覆輪には鍔全面に施された流線型の文様とは別のシンプルな流水文の木目金が貼られている。積層枚数は、文様の表面観察によって調べた。詳細に観察すると櫃孔の縁や、覆輪の縁に積層断面の一部が表出している箇所が幾つか観察出来る。また櫃孔の内側、覆輪に施されている材料は構造上、積層断面が露出しており積層構造を観察することが可能である。鍔の表裏の木目金の文様と櫃孔の内側、覆輪の文様は異なるが、表面の文様の観察によって総合的に判断し、またあえて異なる材料を使用する必然性の有無を考察し、同じ積層枚数の同一素材であると断定した。文様の詳細な観察から表出している材料によって制作工程の順番が確定出来る。吉野川図の桜と竜田川図の紅葉は、いずれも赤銅の単色であり、桜、紅葉の形状を囲むように積層が表出し、周辺の流水文に溶け込んでゆく。この現象から桜、紅葉を鏨で刻印したのち流水紋を施している制作工程が読み取れる。これは斑点状の文様にも同じ現象を確認出来るため、工程は桜紋、竜田川紋と同時に加工されていることが断定出来る。

工程
この2つの鍔の最大の特徴は、桜の花びらと紅葉の葉という他に類例のない木目金による具象物の描写にある。基本的に木目金は、鏨などの切削工具により積層された材料を彫り、鍛造加工をすることで重ねた下の層の金属の色が表出し文様が作られる。この工程において、具象物の文様を作り出すことは高度な技術を必要とし、更に定型で複数の文様を制作することは不可能に近い難易度と考えられる。しかし、以前に筆者が『木目金の教科書』 によって研究報告を行ったテスト結果から刻印によることが判明した。本研究は、この文様の制作工程の研究を一歩進める形で、鍔全体の復元に挑んだ。構造は観察から三枚合わせであることが判明しており、刻印によるデザインの細部の再現性というメリットを最大限に活用するため、3枚に接合してから文様の制作を行った。三枚合わせにした材料に最初に具象である花びらを刻印し、その後丸状の文様、流線型の川の流れの文様と順番に刻印する。これはベースとなる流線型の文様を先に打つと、具象の文様に影響が出てしまうためである。刻印による凹んだレベルまで金属を丁寧に削りとると文様が表出する。最後に同素材による外周と櫃孔に覆輪をまき、全面を執拗に木目金で覆い尽くすことで、鍔という小さな世界に雄大な川の流れを表現することを意図して作られていることが体験出来た。

復元研究の結果
高橋興次作の≪木目金 吉野川図鍔 銘 高橋興次(花押)≫は木目金の技術による刀装具の中において、技術と感性が融合した優れた作品と言える。単なる「文様をつくる技術」ではなくイメージを表現する手段としての木目金がそこに存在する。特筆すべきは、何よりもそのデザインの設計の緻密さである。鍔全体に張り巡らした木目金によって、無限の広がりを意図してデザインしたであろう波の文様によって茫洋とした永遠の川の流れを表現することに成功しているのである。そこには、単なる図形としての文様の構成ではない、木目金であるからこそ表現出来る微細な金属の積層の隙間の立体感と、時間の凝縮した密度が醸し出す素材の経験したエネルギーによって自然の尊厳が表現されている。まさに、木目金であるからこそ表現出来る情景を描き切っていると言って過言ではない。制作工程における時間とエネルギーの凝縮が、表現するテ―マである時の流れや自然の尊厳と完璧に合致し、技術とイメージとの必然性となってそこにあるのである。高橋興次作の≪木目金 吉野川図鍔 銘 高橋興次(花押)≫は、木目金の技術でしか表現出来ないデザインを具現化し、昇華させることに成功した優れた作例なのである。


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