木目金を知る



木目金を知る <第23回>

  2019年9月27日

2019年の「中秋の名月」は9月13日でした。皆様も月を愛でられましたでしょうか。
日本では月の模様が兎が餅つきをする様子にたとえられますが、古来より月と兎の組み合わせは工芸の世界において画題として大変多く見られます。その中の一つに、直接「月」を描かずに「兎」とその他のモチーフの組み合わせにより「月」を連想させる方法があります。
今回ご紹介する江戸時代後期に作られた木目金の鐔の画題がそうです。
「木賊(とくさ)に兎」
植物の「木賊」とかたわらにたたずむ「兎」。この二つだけで構成される画題は18世紀以降の工芸において作例が大変多く見られます。
世阿弥の謡曲「木賊」に挿入される歌「木賊刈る 園原山の木の間より 磨かれ出づる
秋の夜の月影をもいざや刈ろうよ」が元とも言われています。この歌の内容を絵として表現する際に、「磨かれ出づる月」つまり「明るい月=満月」から連想される「兎」を描くことで、逆に「満月」を描かずして連想させるという手法です。


杢目金屋が所蔵するこちらの木目金の鐔において描かれるのは「木賊」と「上を見上げる兎」。一見したところ鐔の中心部分、刀にはめた時に隠れる部分のみに木目金の複雑な模様が見られますが、実は鐔の全体が銅と赤銅からなる二色の木目金で作られています。そしてその表面を黒く仕上げることで夜の暗闇を表現。しかしながら光の当たる角度により、下地の木目金の模様がうっすらと浮かび上がります。鐔の制作者はこの手法により、完全な暗闇ではない、月明かりに浮かぶ辺りの気配というものを感じさせようとしているのではないでしょうか。「上を見上げる兎」の先には満月が明るく輝いているのでしょう。木目金が単なる地模様ではなく、情景を表現するために一役買っています。


木賊と兎は金、銀等の金属により立体的に象嵌されており、さらに木賊も兎も表面に大変細かな線彫りが施されていて、それぞれの質感が繊細に表現されています。兎の眼に施された赤い彩色は、兎の愛らしさを表すと共に、この作品のチャームポイントになっています。
直径7センチにも満たない小さな鐔に詰め込まれた大変高度な金工技術。木目金の技術が、脇役でありながら作品の主題を表現する重要な役割を担っているといえる作品です。

最後に東京国立博物館に所蔵されている歌川広重の浮世絵「月下木賊に兎」をご紹介します。こちらは満月が描かれ、それを見上げる兎が描かれています。鐔の画像と見比べてみていただくのも一興です。



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